旅館業法と民泊新法の違いとは?初心者が理解できるレベルで解説
旅館業法と民泊新法は、どちらも「人を宿泊させる」点では同じです。
しかし、旅館業法と民泊新法では、目的も対象物件もルールも大きく異なります。
この記事では、初心者でも迷わず理解できるように、旅館業法と民泊新法の違いをわかりやすく整理します。
まずは最も重要な「制度の本質的な違い」から見ていきましょう。
目次
【結論】旅館業法は「宿泊施設」、民泊新法は「住宅」を使う制度|目的もルールも全く違う
結論から言うと、
- 旅館業法は「宿泊施設をつくって、1年中(365日)営業するための法律」
- 民泊新法は「住宅を使って、年間180日まで民泊ができる制度」
です。
つまり、どちらも「人を泊めるビジネス」ですが、スタートの考え方がまったく違うため、
手続き・運営のしかた・使える建物・消防のルールなども大きく変わってきます。
まずは、それぞれの特徴を順番に見ていきましょう。
旅館業法=365日営業できる本格的な宿泊事業
旅館業法は、ホテルや旅館、簡易宿所などの「本格的な宿泊施設」を365日営業できる制度です。
最大の特徴は、営業日数に制限がなく、観光地でフル稼働させて収益最大化できる点です。
一方で、宿泊施設としての安全性・衛生基準を満たす必要があるため、用途変更や消防設備の設置など、初期準備や審査が比較的重くなる傾向があります。
「しっかり稼げるがハードルは高い」というイメージが最も近い制度です。
民泊新法=住宅を活用した年間180日以内の民泊制度
民泊新法は、住宅を使って年間180日以内で宿泊提供できる制度です。
最大のメリットは「住宅のまま運用できる」点で、旅館業ほど厳しい構造基準や用途変更が不要なため、誰でも比較的始めやすい仕組みになっています。
ただし、180日の営業制限があるため、収益はどうしても上限が生まれます。
副業規模や空き家活用に向いた“ライトな民泊制度”と言えるでしょう。
物件の構造・用途地域・消防要件が大きく異なる
旅館業法と民泊新法の大きな違いは、「使える建物」と「必要な設備」がまったく違うことです。
旅館業では、ホテルや旅館を建てられる商業地域や準工業地域など、決められた場所でしか営業できません。
さらに、消防設備もホテル並みにしっかり整える必要がある場合があります。
一方、民泊新法では、建物をそのまま「住宅」として使えるため、普通の住宅地(第一種住居地域など)でも運営ができます。
このように、どちらの制度で始めるかによって、選ぶ物件やかかる費用が大きく変わってくるため、最初の判断がとても大事です。
旅館業法と民泊新法の違いを一覧で比較(初心者向けにわかりやすく)
旅館業法と民泊新法は、同じ“宿泊サービス”でも制度の成り立ちが全く異なります。
最も理解しやすい方法は、両者を項目ごとに比較することです。
ここでは、初心者がつまずきやすい「建物用途・営業日数・手続き・消防・管理体制」などのポイントを7つに分けて、結論からわかりやすく解説します。
1.建物用途(宿泊施設か、住宅か)
最も重要な違いは、旅館業法は「宿泊施設」を対象とし、民泊新法は「住宅」を対象とする点です。
旅館業では建物を宿泊施設として使う前提のため、用途変更や構造基準を満たす必要があります。
一方、民泊新法は“住宅のまま”使えるため、賃貸マンションや戸建てでも運用しやすい制度です。
ここを間違えると申請自体ができなくなるため、最初に必ず確認すべき大きな違いです。
2.営業日数(365日 vs 180日)
営業できる日数も大きく異なります。
旅館業法は365日いつでも営業できるため、需要が強いエリアでは高い収益を狙えます。
一方、民泊新法は年間180日の上限があり、この日数を超えると旅館業法違反とみなされる可能性があります。
そのため、民泊新法では「空き家活用や副業規模」が主流で、フル稼働前提の収益最大化には向いていない点が特徴です。
3.許可と届出(許可制 vs 届出制)
旅館業法は「許可制」で、審査があり、図面・設備・衛生基準などを厳しくチェックされます。
対して民泊新法は「届出制」で、書類が整っていれば比較的スムーズに受理されます。
ただし、届出は簡単でも、消防や管理体制の基準はしっかりクリアする必要があるため、初心者でも油断は禁物です。
許可と届出の違いは運営開始までのスピードにも影響します。
4.用途地域の違い(旅館業は制限多い)
旅館業は「宿泊施設として認められる用途地域」に制限され、商業地域、近隣商業、準工業などでないと許可が取れないケースがあります。
一方、民泊新法は住宅を使うため、第一種住居地域などの住宅エリアでも運営可能です。
ただし、自治体の条例による上乗せ規制がある場合も多いため、地域ごとのルール確認は必須です。
5.消防基準の違い(旅館業の方が厳しい)
消防基準は旅館業の方が明確に厳しく、避難経路、誘導灯、自動火災報知設備など“宿泊施設レベル”の設備が求められます。
対して民泊新法は住宅用途のため、小規模物件では比較的緩和されるケースがあります。
しかし、規模や構造によっては民泊でも消防工事が必要になるため、どちらの場合も事前に消防署の相談が不可欠です。
6.管理体制・駆けつけ要件の違い
旅館業では無人運営の場合、「おおむね10分以内の駆けつけ体制」が求められるなど、宿泊施設としての安全確保が重視されます。
一方、民泊新法では、遠隔管理が基本で、条件によっては“登録住宅宿泊管理業者”への委託が必須になるなど、法律上の管理体制が細かく定められています。
目的の違いがそのまま管理要件に反映されている形です。
7.報告義務の違い(民泊は2ヶ月ごと)
旅館業法には定期的な営業日数報告はありませんが、民泊新法には「2ヶ月ごとの営業日数報告義務」があります。
この報告に基づき、行政は180日ルールの遵守をチェックします。
報告を怠ると指導の対象になるため、民泊新法で運営する場合は日数管理が非常に重要です。
ここは初心者が見落としやすいポイントです。
旅館業と民泊新法の違いをさらに深掘り

旅館業法と民泊新法は「対象」「建築基準」「消防」「管理体制」など、根本のルールが大きく異なります。
ここでは、制度を選ぶ際に最も差が出る4つのポイントを深く解説し、なぜ判断を誤ると大きなコストや手戻りにつながるのかを整理します。
用途変更の必要性(旅館業は必要/民泊は住宅のまま)
旅館業で運営する場合、建物を「宿泊施設」として扱う必要があるため、建築用途を“ホテル・旅館用途”に変更するケースが多くなります。
これが許可審査の前提であり、手続きも工事も発生しやすく、初期費用が重くなる理由です。
一方、民泊新法は住宅のまま利用できるため、用途変更は不要。
ここが両制度の最大の違いであり、最初の判断を誤ると後から大きな追加コストが発生します。
建築基準・設備基準の違い
旅館業では、客室面積、採光・換気、トイレや浴室の数など、宿泊施設としての細かい基準を満たす必要があります。
簡易宿所であっても「1人あたり3㎡以上」など明確な面積基準が存在します。
対して民泊新法は「住宅として適切か」が基準であり、キッチン・トイレ・浴室などの住宅設備が整っていれば基本的に問題ありません。
建築基準のハードルの差は、費用と手間の差に直結します。
消防設備・避難導線の違い
旅館業では宿泊施設扱いとなるため、避難誘導灯、非常用照明、自動火災報知設備、避難経路の確保など、消防基準が大幅に厳しくなります。
規模によっては数十万〜数百万円の工事が必要になることもあります。
一方、民泊新法は「住宅用途+民泊に必要な最低限の設備」で済む場合が多く、小規模のマンションや戸建てでは比較的軽い基準となります。
ただし建物の構造次第で追加工事が必要になるケースもあります。
無人運営・現地管理のルールの違い
旅館業で無人運営を行う場合は、「おおむね10分以内の駆けつけ」などの体制を整える必要があり、宿泊者の安全確保が重視されます。
対して民泊新法では、オーナーが現地に住まない場合や6室以上の運営では、“住宅宿泊管理業者への委託”が義務化されており、法律で管理体制が明確に定められています。
どちらも無人運営は可能ですが、必要な体制や費用が大きく異なります。
どちらを選ぶべき?物件タイプ別の最適な制度

旅館業と民泊新法は「どちらが良いか」ではなく、「物件ごとに最適解が異なる」制度です。
立地・構造・予算・収益目標に応じてベストな選択が変わるため、ここでは物件タイプ別に最適な制度をわかりやすく解説します。
旅館業が向くケース(収益最大化・一棟・商業地域)
旅館業は、365日フル稼働させて収益を最大化したい人に向いています。
特に観光地、一棟運用できる物件、商業地域・準工業地域などの用途地域にある物件では、大きな収益を見込めます。
初期費用は高くなりますが、年間売上の上限がなく投資回収も早いため、「本格的に宿泊ビジネスで稼ぎたい」場合は旅館業が最適です。
民泊新法が向くケース(自宅・空き家・小規模運用)
民泊新法は、自宅の一部を貸したい、空き家を活用したい、ワンルームや1Kなど小規模物件で運営したい場合に適しています。
用途変更や大規模な消防工事が不要なことが多く、初期費用を抑えて始められる点が最大の魅力です。
180日制限はあるものの、リスク低めで始めたい初心者には最も取り組みやすい制度です。
物件の立地・構造・予算から見た判断基準
制度選びは「立地」「建物構造」「予算」の3つで判断するのが最も確実です。
商業地域で一棟物件なら旅館業の方が収益性が高く、住宅地・小規模物件・小予算で始めたいなら民泊新法の方が適しています。
また、消防基準や用途変更の可否によって追加の工事費が大きく変わるため、物件の特徴を踏まえて制度を選ぶことが成功の鍵となります。
初心者が絶対に知っておきたい注意点

旅館業法と民泊新法は似ているように見えますが、守るべきルールを誤ると「営業停止」「行政指導」「罰則」に繋がる可能性があります。
特に初心者は、制度の違いよりも“やってはいけない失敗”を先に理解することが大切です。
ここでは実際にトラブルになりやすい4つの注意点を解説します。
180日超運営は旅館業法違反になる
民泊新法で運営する場合、年間180日以内という営業上限を必ず守る必要があります。
これを超えて営業すると、残りの日数は「旅館業許可なしで営業した」とみなされ、旅館業法違反に該当するリスクがあります。
Airbnbの自動予約設定で気づかないまま超過するケースもあるため、カレンダー管理は最重要ポイントです。
用途変更が必要なのに無申請で運営するリスク
旅館業で運営する場合、建物を“宿泊施設用途”として扱うために用途変更が必要になるケースがあります。
用途変更を行わずに運営すると、保健所だけでなく建築指導課や消防からも指導される可能性があり、最悪の場合は即時営業停止の対象になります。
民泊新法なら用途変更は不要ですが、旅館業の場合は注意が必要です。
消防設備の不備で運営不可になるケース
消防設備は旅館業でも民泊でも最重要ポイントです。
特に旅館業は基準が厳しく、避難誘導灯や自動火災報知設備などが必須になることがあります。
民泊新法でも、建物の構造によっては追加工事が必要になる場合があります。
消防署の事前相談をせずに申請を進めると、あとから多額の工事費が発生するなどのトラブルに繋がりやすいです。
管理委託義務を守らないと行政指導の可能性
民泊新法では、オーナーが現地に住んでいない場合や6室以上の運営では、住宅宿泊管理業者への委託が義務化されています。
これを守らないと行政指導や是正命令の対象になります。
旅館業も無人運営は可能ですが、10分程度で駆けつけられる体制など、厳格な管理体制が必要です。
管理ルールの理解不足は非常に起こりやすいミスなので注意しましょう。
旅館業法と民泊新法のよくある質問(FAQ)
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初心者が特に疑問を感じやすい点を、簡潔にまとめて回答します。
制度の理解だけでなく、実際に運用を検討するときに判断材料となる内容です。
マンションで運営できるのはどっち?
マンションで運営しやすいのは民泊新法です。
住宅のまま使えるため、用途変更が不要で、設備要件も比較的軽いのが理由です。
一方、旅館業はマンションで許可を取るのが難しく、用途地域・構造・管理組合の規約など多くのハードルがあります。
無人チェックインは可能?
どちらの制度でも無人チェックインは可能ですが、ルールが異なります。
旅館業では“10分程度の駆けつけ体制”が求められ、民泊では“住宅宿泊管理業者への委託(条件付き)”が法律で義務付けられています。
運営方法によって必要な仕組みが変わるため、事前に体制を整えておく必要があります。
初期費用はどちらが安い?
一般的に初期費用が安いのは民泊新法です。
住宅のままで運営できるため、用途変更や大型の消防工事が不要なケースが多いからです。
一方、旅館業は建物用途や設備を整えるために数十万〜数百万円の投資が必要になる場合があります。
初心者におすすめなのはどっち?
初心者に最も始めやすいのは民泊新法です。
初期費用が抑えられ、手続きも比較的簡単で、小規模でも運営しやすいためです。
ただし、180日制限によって収益上限がある点は理解しておく必要があります。
フル稼働で大きな収益を狙いたいなら旅館業が向いています。
まとめ|旅館業法と民泊新法は目的もルールも根本的に違う
旅館業法は「年間フル稼働で収益最大化できる宿泊施設向けの制度」、民泊新法は「住宅を使った小規模運用向けの制度」という明確な違いがあります。
用途、手続き、消防基準、管理体制などは全て制度ごとに異なるため、物件の立地・構造・目的に合わせて最適な制度を選ぶことが重要です。
最初の制度選びを正しく行うことで、無駄な費用や手戻りを防ぎ、安定した宿泊運営につながります。



