民泊M&Aとは?引き継げるもの・引き継げないもの、価格の決まり方を解説
民泊M&Aとは、運営中の民泊事業を、株式譲渡や事業譲渡によって売買する方法です。
ただし、許可・認定・届出、賃貸借契約、OTAアカウント、口コミ、既存予約などが、すべて自動的に引き継がれるわけではありません。
事業譲渡では個別の手続きや相手方の同意が必要になることが多く、株式譲渡でも変更届や契約条項の確認が必要です。
【この記事のポイント】
- 民泊M&Aには、会社ごと引き継ぐ「株式譲渡」と、資産や契約を個別に引き継ぐ「事業譲渡」がある
- 家具・設備などは、所有関係を確認したうえで譲渡対象にできる
- 許可・認定・届出、賃貸借契約、OTAアカウントなどは個別の確認が必要
- 売上や稼働率などの運営実績は、主に価格や収益性を判断する材料になる
- 価格は、利益、立地、物件の状態、契約や許可の継続性などをもとに判断される
本記事では、民泊M&Aで引き継げるもの、価格の決まり方、売買の流れ、契約前の注意点を分かりやすく解説します。
なお、民泊そのものの仕組みについては「民泊とは?ゼロからわかる3つの制度の特徴とホテル・旅館との違いも解説」で詳しく解説しています。
※制度に関する記載は2026年8月21日時点の情報です。自治体の条例や手続き、各サービスの規約は変更される可能性があるため、取引前に最新情報をご確認ください。
目次
民泊M&Aとは、運営中の民泊事業を売買する方法

民泊M&Aでは、株式や事業に必要な資産・契約などを取引します。何を譲渡対象にするかは、株式譲渡か事業譲渡か、不動産を含むかなどによって異なります。
民泊M&Aでは、家具や設備などを譲渡できる場合がありますが、許可・届出・契約・OTAアカウントなどが自動的に引き継がれるわけではありません。
【引き継げるもの・引き継げないもの一覧表】
| 対象 | 基本的な考え方 |
| 家具・家電・設備 | 売り手が所有し、譲渡できるものを契約で特定する |
| 運営マニュアル | 売り手に著作権や利用権があるか確認する |
| 賃貸借契約 | 貸主の承諾や買い手との新規契約が必要になる |
| 清掃・運営代行契約 | 契約先の同意や再契約が必要になる |
| 許可・認定・届出 | 制度や譲渡方法により扱いが異なる |
| OTAアカウント・レビュー | サービス規約によっては引き継げない |
| 既存予約 | OTA規約や宿泊者との契約を踏まえた対応が必要 |
不動産売買との違い
通常の不動産売買では、立地、築年数、建物の状態、周辺の取引事例などで価格を判断します。投資用不動産の場合は、賃料収入や利回りも重視されます。
一方の民泊M&Aでは、その民泊がどれだけ利益を生んでいるかが価格を大きく左右するポイントです。
| 比較項目 | 通常の不動産売買 | 民泊M&A |
| 主な取引対象 | 土地・建物 | 株式、事業に必要な資産・譲渡可能な契約など |
| 価格の主な判断材料 | 立地・築年数・周辺相場・収益性など | 収益力・運営実績・資産価値・契約や許認可の継続性など |
| 買い手が確認するもの | 物件の状態・権利関係・利回りなど | 売上・利益・稼働率・運営体制・契約状況・法令適合性など |
| 取得後の準備 | 民泊を始める場合は別途必要 | 設備や運営体制の一部を引き継げる場合がある |
買い手にとっては、開業準備の一部を引き継げる点が大きな違いです。
ただし、引き継げばすぐに営業できるとは限りません。許認可の手続きに時間がかかると、その間は営業できない期間が生じます。
引き継げるものと引き継げないもの
民泊M&Aで最初に確認したいのが、何を引き継げて何を引き継げないのかという線引きです。
項目ごとの基本的な扱いは、次のとおりです。
| 項目 | 基本的な扱い |
| 家具・家電・設備 | 売り手が所有し、譲渡できるものを契約で特定する |
| 運営マニュアル | 売り手に著作権や利用権があるかを確認し、秘密情報の扱いも定める |
| 売上・稼働率のデータ | 原則として譲渡物ではなく、査定・判断資料として開示する |
| 賃貸借契約 | 事業譲渡では、貸主の承諾を得た契約上の地位移転(賃貸借契約を買い手へ移すこと)や新規契約が必要になる |
| 清掃・運営代行契約 | 契約内容により、契約先の同意や再契約が必要になる |
| 許認可・認定・届出 | 運営制度と譲渡方法により扱いが異なる |
| OTAアカウント・レビュー | 各サービスの規約による。売買契約だけでは当然に承継できない |
| 既存予約 | 売り手・買い手間の負担だけでなく、OTA規約や宿泊者との契約も踏まえて対応する |
注意していただきたいのが、予約サイトのアカウントと口コミの扱いです。
予約サイトによっては、アカウントの第三者への譲渡が規約で制限されています。
そのため、過去の口コミや評価は、売買契約だけで自由に移せるものではありません。
取引前の運営品質を判断する材料にはなりますが、購入後も同じ集客力が続くとは限らない点に注意が必要です。
許認可、賃貸借契約、アカウント、既存予約については、記事後半の「民泊M&Aでは許認可と契約を引き継げるかを必ず確認する」で詳しく解説します。
株式譲渡と事業譲渡の違い
この記事で扱う民泊M&Aの主な方法は、法人ごと引き継ぐ株式譲渡と、必要な資産や契約を個別に移す事業譲渡です。
| 手法 | 譲渡の対象 | 特徴 |
| 株式譲渡 | 民泊を運営する法人の株式 | 営業主体である法人は変わらないが、負債や過去の法務・税務上のリスクも法人に残る |
| 事業譲渡 | 民泊事業に必要な資産・譲渡可能な契約など | 譲渡対象を選べる一方、契約や許認可について個別の同意・手続きが必要になる |
株式譲渡では営業主体である法人自体が変わらないため、事業譲渡のように契約や許認可の主体が別の事業者へ移るわけではありません。
ただし、役員など届出事項に変更が生じた場合の手続きや、契約上の株主変更に関する条項は確認が必要です。
また、簿外の債務や過去のトラブルまで引き継ぐ可能性があるため、事前の調査が欠かせません。
個人が運営している民泊には譲渡対象となる法人株式がないため、家具・設備などの資産や、譲渡可能な契約を個別に移す形で取引します。
譲渡の具体的な進め方については「民泊物件は譲渡できる?権利のみ売却する方法と流れも解説」で解説しています。
自分の民泊がどの方法に当てはまるのか、そもそも売買の対象になるのかが分からない場合は、収支と契約内容をもとに整理する必要があります。
民泊M&Aで売却すると、収益力や運営実績も評価の対象になる

運営中の民泊を手放す方法には、廃業、不動産としての売却、M&Aがあります。
M&Aでは、建物や設備だけでなく、収益力や運営実績も評価の対象になる可能性があります。
一方で、希望する価格や時期で必ず売れるわけではありません。
ここでは、売り手にとっての次の2点を整理します。
- 廃業にかかる費用を抑えられる場合がある
- 売却には時間がかかる場合もある
何が評価されて価格が決まるのかは、後半の「民泊M&Aの価格は、収益力や引き継げる資産などに左右される」で解説します。
廃業にかかる費用を抑えられる場合がある
民泊をやめる場合、事業を終了するだけでも費用が発生することがあります。
主に発生するのは、次のような費用です。
- 原状回復工事(賃貸物件の場合)
- 家具・家電・寝具などの処分費
- 賃貸借契約の解約に伴う費用
- 消防設備や看板などの撤去費
- 廃止の届出や手続きにかかる手間
M&Aで家具や設備、運営環境を引き継いでもらえれば、処分や撤去が不要となり、廃業に伴う費用の一部を抑えられる場合があります。さらに、条件が合えば譲渡代金を得られる可能性もあります。
ただし、M&Aなら必ず廃業より手元に多く残るとは限りません。
赤字が続いている、宿泊できる日数や曜日の制限が厳しい地域にあるといった条件では、価格が伸びにくくなります。
廃業の手続き自体については「民泊の撤退・廃業手続きの進め方とは?今やるべき判断と具体的手順を徹底解説」で解説しています。
売却には時間がかかる場合もある
民泊の売却では、買い手が見つかるまでに一定の期間がかかります。
次の点は、あらかじめ想定しておきましょう。
- 希望価格で売れるとは限らない
- 買い手が見つからない場合もある
- 収益性や立地によって評価が大きく変わる
- 許認可の手続き期間が、引き渡しや営業再開のスケジュールに影響する場合がある
- 売却時期を優先すると、価格や契約条件の選択肢が狭くなる場合がある
特に、資金繰りが厳しくなってから動き始めると、売却時期や条件を十分に選べず、価格面で譲歩せざるを得ない場合があります。
事業を続けられるうちに相談しておくと、条件を選びやすくなります。
安値で手放さないための考え方は「民泊物件の投げ売りが急増中!売却理由・価格相場・買い方まで徹底解説」でも解説しています。
民泊M&Aで購入すると、実際の営業実績を確認したうえで判断できる

ゼロから民泊を開業する場合は、物件探し、改修、消防や申請の手続きに時間と費用がかかります。
既存の民泊を購入する場合は、これらの一部を引き継げるうえ、過去の稼働率や売上をもとに収益を判断できる点が特徴です。
ここでは、買い手にとっての次の2点を解説します。
- 開業準備の一部を省ける場合がある
- 過去の実績から収益性を検証できる
開業準備の一部を省ける場合がある
新規開業と、既存の民泊を購入する場合の違いを整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 新規開業 | 民泊M&Aで購入 |
| 初期費用 | 改修・消防・申請費など | 譲渡代金・追加投資・手続費用など |
| 開業までの期間 | 物件探し・工事・申請が必要 | 設備などを利用できれば短縮できる場合がある |
| 収益の見通し | 周辺相場などから予測する | 過去実績を確認できるが、購入後の継続を保証するものではない |
| 自由度 | 比較的高い | 既存の設備・内装による制約がある |
| 主なリスク | 追加工事・開業の遅れ | 業績の変動・修繕・許認可や契約を継続できないリスク |
新規開業は、間取りや内装を自分の狙うターゲットに合わせて設計できる自由度があります。
これに対して購入は、すでに整った設備と実績値をもとに判断できる点が強みです。
ただし、引き継ぎ後すぐに営業できるとは限りません。許認可の手続きに要する期間によって、開業できる時期は変わります。
購入後に必要になる手続きや追加費用は、後半の許認可の章でまとめて解説します。
過去の実績から収益性を検証できる
既存の民泊を購入する主なメリットの一つは、実際の数字を確認したうえで判断できることです。
【過去の実績で確認したい項目】
- 月別の売上
- 稼働率
- 平均宿泊単価
- 運営代行費
- 清掃費
- OTA手数料
- 光熱費・通信費
- 修繕履歴と設備の状態
ここで注意したいのが、確認する期間です。
繁忙期の数字だけを見ると、年間の収益を過大に見積もるおそれがあります。観光地やリゾート地では、季節によって稼働率が大きく変わります。
少なくとも直近1年分を月別で確認し、可能であれば複数年分を比較してください。
売上管理表だけでなく、OTAの入金記録や預金口座の入出金、運営代行会社の精算書などとも照合することが大切です。
購入前の収益性の見方については「民泊収益シミュレーションのやり方とは?民泊タイプ別の出し方やおすすめツールも紹介」もあわせてご覧ください。
民泊を手放す方法は、何を譲渡するかと売却先の探し方で整理する

民泊を手放す方法は、まず「事業を譲渡するのか」「不動産を売却するのか」「事業を終了するのか」で整理します。
そのうえで、不動産会社やM&A仲介会社を通じて買い手を探すのか、買取会社へ直接売却するのかを検討しましょう。
運営実績を価格に反映させたいのか、早く手放したいのかによって、選ぶべき方法は変わります。
| 区分 | 主な対象 | 特徴 | 向いているケース |
| 株式譲渡 | 民泊を運営する法人の株式 | 法人を維持したまま経営権を移す | 法人が民泊事業を運営しており、法人ごとの譲渡を検討する場合 |
| 事業譲渡 | 家具・設備・譲渡可能な契約など | 譲渡対象を個別に決められる | 民泊事業の全部または一部を引き継ぎたい場合 |
| 不動産売却 | 土地・建物 | 不動産価値を中心に売買する | 物件を所有しており、建物・土地を手放したい場合 |
| 廃業 | 事業の終了 | 売却せず、必要な届出や契約解約、原状回復などを行う | 買い手が見つからない場合や、譲渡条件が合わない場合 |
なお、「買取」は売却相手や売却方法を表す言葉であり、上記の取引と別の譲渡類型ではありません。
不動産会社が土地・建物を買い取る場合もあれば、事業会社が民泊事業を買い取る場合もあります。
また、「オーナーチェンジ」は一般に、賃貸中の不動産を賃貸借関係が続いた状態で売買し、物件の所有者が変わる取引を指します。
民泊施設の所有権を移すだけで、民泊事業、許認可、OTAアカウント、家具・設備、運営マニュアルまで自動的に引き継がれるわけではありません。
どの方法を選ぶかの判断基準
どの方法が適しているかは、手元にある資産と、優先したい条件から判断できます。
- 運営実績や収益力も含めて評価してもらいたい場合は、株式譲渡や事業譲渡を検討
- 民泊事業をやめ、所有する土地・建物を手放したい場合は、不動産売却を検討
- 売却までの期間を優先したい場合は、買取会社への直接売却も選択肢に(仲介による売却より価格が低くなる場合も)
- 物件所有者と民泊運営者が異なる場合は、不動産だけを売却するのか、運営契約や賃貸借関係も整理するのかを確認
- 買い手が見つからない場合や条件が合わない場合は、廃業も検討
賃貸物件で運営している場合、運営者は土地・建物そのものを売却できません。
事業譲渡を検討する場合も、賃貸借契約上の地位を移せるか、買い手が新たに賃貸借契約を結べるかについて、貸主の承諾と契約内容の確認が必要です。
早く現金化したい場合の選択肢は「民泊物件・事業の買取先3選!買取の手順や流れ・注意点まで徹底解説」、物件ごと引き継ぐ方法は「民泊オーナーチェンジとは?購入・売却・手続き・注意点まで徹底解説」で解説しています。
民泊M&Aの価格は、収益力や引き継げる資産などに左右される

民泊M&Aの価格は、建物の広さや築年数だけで決まるものではありません。
その事業が生み出している利益、買い手が利用できる資産や体制、負債や追加投資の必要性などによって変わります。
ここでは、次の3点を解説します。
- 価格を決める基本的な考え方
- 民泊M&Aの価格を左右する9つの要素
- 営業できる日数によって収益性の上限が変わること
価格を決める基本的な考え方
民泊M&Aの価格に、法令で定められた一律の算定方法はありません。
査定方法の一つとして、平常時に見込める年間利益や実際に手元に残るお金をもとに事業価値を検討する方法がありますが、設備などの資産価値、負債、修繕の必要性、契約や許認可の継続性も考慮されます。
土地・建物を取引に含める場合は、不動産の価格と民泊事業の価値を分けて検討し、同じ価値を重複して計上していないかにも注意が必要です。
判断材料になるのは、次の項目です。
- 年間の営業利益
- 今後の収益の見通し
- 家具・設備などの資産価値
- 清掃や運営を任せられる体制があるか
- 契約や許認可を引き継げるか
買い手の立場では、譲渡代金と購入後の追加投資を、平常時のキャッシュフローで何年かけて回収するのかを試算しておくと判断しやすくなります。
計算式は次のとおりです。
簡易的な月間宿泊売上=平均宿泊単価×販売した宿泊日数
簡易的な月間収支=月間宿泊売上-運営経費
単純回収期間=(譲渡代金+購入後の追加投資)÷簡易的な月間収支
たとえば、譲渡代金と追加投資の合計が300万円、月間売上が35万円、運営経費が25万円の場合を考えます。
月間収支は10万円ですので、単純な回収期間は次のようになります。
300万円÷10万円=30か月
およそ2年6か月で投資を回収する計算です。
ただし、稼働率は年間を通じて一定ではありません。
好調時・通常時・低稼働時の3パターンで試算しておくと、判断の精度が上がります。
| 想定 | 月間売上 | 月間経費 | 月間収支 | 300万円の単純回収期間 |
| 好調時 | 45万円 | 30万円 | 15万円 | 20か月 |
| 通常時 | 35万円 | 25万円 | 10万円 | 30か月 |
| 低稼働時 | 22万円 | 20万円 | 2万円 | 150か月 |
※説明用の簡易試算です。清掃料などの付帯収入や、すべての費用・税金を網羅したものではなく、実際の売上・収支を保証するものでもありません。
この計算は、月ごとの収支が将来も続くと仮定した単純な試算です。
実際には、繁閑差、税金、突発的な修繕、設備の交換、借入利息、借入元本の返済なども考慮する必要があります。
単純計算の結果だけで判断せず、余裕を持った資金計画を立ててください。
具体的な価格帯や算定方法については「民泊M&A相場はいくら?価格目安・算定方法・許認可別の違いを徹底解説」で詳しく解説しています。
民泊M&Aの価格を左右する9つの要素
買い手が価格を判断する際に見ているのは、次のような項目です。
- 売上・営業利益
- 稼働率
- 平均宿泊単価
- 立地とアクセス
- 物件の状態と修繕履歴
- 清掃・運営体制
- レビューなどの集客実績
- 賃貸借契約や運営代行契約を引き継げるか
- 許認可の種類と運営方式
これらを整理すると、高く評価されやすい民泊は、購入後も収益を維持しやすい状態が整っている民泊だといえます。
運営体制も重要な判断材料です。
業務がマニュアル化され、特定の人に依存せず再現できる状態であれば、評価される場合があります。
外部委託している場合は、委託費用だけでなく、契約を継続できるか、解約条件や値上げの可能性がないかも確認が必要です。
反対に、赤字が続いている、修繕が必要な設備が多い、契約の引き継ぎに不確実性があるといった場合は、価格が下がりやすくなります。
営業できる日数によって収益性の上限が変わる
民泊は、どの制度で運営しているかによって、営業できる日数が変わります。
住宅宿泊事業法にもとづく民泊では、4月1日正午から翌年4月1日正午までの1年間に、人を宿泊させる日数が180日を超えてはならないと定められています(住宅宿泊事業法第2条第3項、同法施行規則第3条)。
この日数は届出住宅ごとに算定されるため、途中で事業者が変わっても、それまでに宿泊させた日数はリセットされません。
出典:観光庁「住宅宿泊事業法 FAQ集」
購入する側は、4月1日正午から翌年4月1日正午までの対象期間に、その届出住宅ですでに何日の宿泊実績があるかも確認する必要があります。
自治体によっては、条例で営業できる曜日や期間がさらに制限されている場合もあります。
宿泊可能な日数や曜日が制限されると、売上を得られる機会も限られるため、注意が必要です。
一方、旅館業法には、住宅宿泊事業法のような年間180日の営業日数制限はありません。
ただし、用途地域、施設基準、条例、賃貸借契約、管理規約などの確認は別途必要です。
そのため、同じ売上や利益に見えても、制度によって収益の伸びしろは異なります。
ただし、旅館業の許可があれば必ず高く売れるというものではありません。立地、稼働の安定性、設備の状態を含めて総合的に判断されるとお考えください。
制度ごとの相場の違いについては、「民泊M&A相場はいくら?価格目安・算定方法・許認可別の違いを徹底解説」で詳しく解説しています。
民泊M&Aの一般的な流れ

民泊M&Aの進め方に、法令で決められた一律のステップがあるわけではありません。
一般的には、相談と査定から始まり、買い手探し、情報開示、調査、条件交渉、契約、引き継ぎという流れで進みます。
売り手と買い手では確認する内容が異なるため、同じ段階で両者が何をするのかを整理しました。
| 段階 | 売り手 | 買い手 |
| ①準備 | 相談・査定、収支や契約書類の整理 | 案件探し、購入条件の整理 |
| ②条件の整理 | 希望価格・引き渡し時期・公開範囲を決める | 予算と資金調達の方法を決める |
| ③マッチング | 仲介やプラットフォームで買い手を探す | 気になる案件に打診する |
| ④情報開示・調査 | 秘密保持契約を結び、収支や契約内容を段階的に開示する | 資料・現地・法令適合性を確認し、収益性やリスクを検証する |
| ⑤交渉・合意 | 価格と引き継ぎ条件を交渉する | 追加投資額や営業停止期間の可能性を織り込んで交渉する |
| ⑥契約・引き継ぎ | 契約・決済、譲渡対象となる資産・情報の引き渡しを行う | 契約・決済、許認可や契約、予約の取り扱いに関する手続きを行う |
案件によっては、基本合意書の締結、専門家による買収前調査(デューデリジェンス)、許認可承継の承認、融資実行などが別の段階として加わります。
取引前に確認される主な資料
情報開示の段階で必要になる主な資料は、次のとおりです。
- 売上・経費が分かる資料(月別が望ましい)
- 稼働率・平均宿泊単価が分かるデータ
- 賃貸借契約書
- 住宅宿泊事業の届出書や旅館業の許可証など許認可関係の資料
- 消防法令適合通知書や消防設備の点検記録など、消防関係の資料(必須添付書類ではない)
- 運営代行・清掃業者との契約書
- 修繕履歴と設備の一覧
- 既存予約の一覧
- 近隣とのトラブルや苦情の記録
これらが揃っていないと、買い手が収益性やリスクを十分に判断できず、価格や契約条件に影響する場合があります。
売却を考え始めた段階で、少しずつ整理しておきましょう。
なお、既存予約の一覧や宿泊者名簿には個人情報が含まれます。
交渉初期から氏名・連絡先をそのまま開示するのではなく、必要性に応じて匿名化し、秘密保持契約や安全管理措置を整えたうえで段階的に開示してください。
契約書の作成や引き渡しの手続きについては、「民泊物件は譲渡できる?権利のみ売却する方法と流れも解説」で詳しく解説しています。
民泊M&Aでは許認可と契約を引き継げるかを必ず確認する

民泊M&Aでは、物件や設備は引き継げても、許認可や契約の扱いは運営方式と譲渡の方法によって異なります。
引き渡し後に営業できない期間が生じないよう、契約前の確認が欠かせません。
ここでは、次の4点を解説します。
- 許認可の扱いは運営方式と譲渡方法によって異なること
- 物件と地域のルールの確認
- 予約サイトのアカウントや既存予約、個人情報の扱い
- 購入後に必要になる追加費用や手続き
許認可の扱いは運営方式と譲渡方法によって異なる
許認可を引き継げるかどうかは、どの制度で運営しているか、どの方法で譲渡するかによって変わります。
制度ごとの基本的な考え方は、次のとおりです。
- 住宅宿泊事業法(民泊新法):届出は事業者ごとに行うため、事業者が変わる場合、譲り受ける側は新たに届出を行う必要があります
- 旅館業:2023年12月13日に施行された改正により、事業を譲り渡す人と譲り受ける人が、譲渡の効力発生前に都道府県知事等の承認を受けることで、営業者の地位を承継できる制度が設けられました。ただし、一つの許可で営業している事業の一部だけを譲渡する場合などは対象外です
- 株式譲渡:営業主体である法人そのものが変わらないため、事業譲渡とは扱いが異なります。ただし届出事項の変更や契約条件の確認が必要になる場合があります
- 特区民泊:認定は事業者に対して行われるため、別人・別法人への譲渡によって当然に承継されるものではありません。変更届で足りるか、新たな認定が必要かを管轄自治体へ事前に確認する必要があります
旅館業の承継については、厚生労働省が改正内容を公表しています。
譲渡の効力が承認より先に発生すると承継制度は利用できず、新規許可が必要です。
また、承継後に大幅な施設変更を行う場合も、新規許可と同様の扱いとなる可能性があります。
出典:厚生労働省「旅館業の事業譲渡に関する手続」
一方で、住宅宿泊事業の届出は事業者ごとに行うものです。
売り手の廃業と買い手の届出、届出番号の通知などのタイミングによっては、営業できない期間が生じます。
さらに、新たに届出を行っても、同じ届出住宅ですでに宿泊させた日数は180日の計算上リセットされません。
売買の際は、4月1日正午から翌年4月1日正午までの対象期間に、何日の宿泊実績があるのかも確認しておきましょう。
特区民泊については、地域ごとの制度変更にも注意が必要です。
たとえば大阪市では、2026年5月29日をもって特区民泊の新規認定申請の受付が終了しています。
同日以前に認定を受けた施設などは従来どおり営業できますが、別人・別法人への譲渡によって認定が当然に移るわけではありません。
事業者変更を伴う取引では、変更手続きで営業を継続できるかを、契約前に大阪市保健所へ確認してください。
住宅宿泊事業では、届出前に消防法令への適合状況を確認する必要があります。消防法令適合通知書の提出方法などは自治体によって異なるため、所轄の消防署や自治体へ確認してください。
以前から営業している施設でも、設備や運営方法を変更する場合には、あらためて消防上の確認が必要になることがあります。
届出や許可の手続きには一定の期間がかかりますので、引き渡し日から逆算して計画を立ててください。
制度の詳細や必要書類は、観光庁の「民泊制度ポータルサイト」と、管轄の自治体・保健所で確認できます。
物件と地域のルールを確認する
許認可とあわせて確認したいのが、物件そのものと地域のルールです。
次の項目は、取引が成立するかどうかに直結します。
- 賃貸物件の場合、既存の賃貸借契約を引き継げるか、または買い手が新たに契約できるか
- 契約上、民泊としての利用が認められているか
- 転貸が認められているか
- マンションの場合、管理規約で民泊が禁止されていないか
- 旅館業など、運営方式によって用途地域の制限に抵触しないか
- 自治体の上乗せ条例で、営業できる日数や曜日が制限されていないか
- 近隣への説明が必要とされていないか
賃貸物件では、既存の賃貸借契約をそのまま買い手へ移せるとは限りません。貸主の承諾を得て契約上の地位を引き継ぐか、買い手が新たに賃貸借契約を締結できるかを確認する必要があります。
また、マンションの一室で運営している場合は、管理規約の確認が欠かせません。規約で短期の宿泊利用が禁止されていれば、購入しても営業できません。
地域ごとのルールは、自治体が一次情報です。前述の民泊制度ポータルサイトとあわせて、自治体や保健所、建築指導課へ確認してください。
OTAアカウント・レビュー・既存予約と個人情報の扱いを確認する
集客に直結する部分ですので、契約前に扱いを決めておく必要があります。
確認すべき項目は、次のとおりです。
- アカウントの譲渡や名義変更が可能かどうか(各サービスの規約による)
- レビューや評価を引き継げるかどうか
- 引き渡し後に残る既存予約を、どちらが履行するか
- 引き渡し前後にまたがる宿泊の売上をどう精算するか
- キャンセルが発生した場合の対応と費用負担
- 予約者情報やリピーター情報を移行する場合の個人情報の取り扱い
予約サイトのアカウントや予約を移せるかどうかは、各サービスの規約によって異なります。
たとえばAirbnbでは、アカウントの所有権を別のホストへ譲渡できず、アカウント間で情報や予約を移行することもできないと案内されています。
出典:Airbnbヘルプセンター「アカウントの統合または所有権の譲渡」
新しいアカウントやリスティングを作成する必要がある場合に備え、過去の口コミや評価を引き継げないケースも想定して集客計画を立てておくことが大切です。
株式譲渡でアカウントの契約主体となる法人自体が変わらない場合も、登録情報の変更や本人確認が必要になる可能性があるため、OTAへ確認してください。
既存予約について売り手と買い手の負担を契約で定めても、その合意だけで宿泊者やOTAとの契約が買い手へ移るわけではありません。
売り手が引き続き予約を履行するのか、宿泊者の同意を得て再予約するのか、キャンセルする場合に誰が費用を負担するのかを、OTA規約を踏まえて決める必要があります。
また、予約者情報や過去の宿泊者データを引き渡す場合は、個人情報の取り扱いに注意が必要です。
合併や事業譲渡など、実質的な事業承継に伴って、その事業に関する個人データを提供する場合は、提供先は個人情報保護法上の「第三者」に当たらないとされています。
出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」
一方で、承継した後も、原則として承継前の利用目的の達成に必要な範囲で取り扱わなければなりません。
単なる宿泊者名簿や顧客リストの売買が、当然に事業承継として扱われるわけではないため、実質的な事業承継に当たるか、取得時の利用目的は何か、OTA規約上データを提供できるかを確認しておきましょう。
判断に迷う場合は、個人情報保護委員会の公表資料や専門家への確認をおすすめします。
購入後に追加費用や手続きが必要になることもある
買い手にとっては、譲渡代金だけが投資額ではありません。
引き渡し後に、次のような費用や手続きが発生します。
- 許認可の届出や許可に関する手続き(専門家に依頼する場合は報酬も発生)
- 賃貸人との契約の締結や条件交渉
- 設備の更新・修繕(給湯器、エアコン、水回りなど)
- 家具や寝具の入れ替え
- 予約サイトのアカウント開設と写真撮影などの集客準備
- 清掃業者や運営代行会社との契約
- 消防設備の点検や不足分の設置
- 運転資金
これらを含めた総投資額で判断することが、購入後の資金不足を防ぐポイントです。
資金調達の方法については「民泊融資の基礎から審査・補助金まで徹底解説!開業したい人向け」で解説しています。
なお、民泊M&Aで起こりやすいのが、許認可や契約の承継確認が足りないまま契約してしまうケースです。
繁忙期の数字だけを見て収益を判断してしまうケースも、同様につまずきやすい失敗です。
具体的な失敗のパターンと事例は「民泊M&Aで失敗するパターン7選!失敗事例や成功戦略も紹介」で詳しく解説しています。
民泊M&Aの相談先は仲介会社とプラットフォームが中心

民泊M&Aの相談先には、案件を個別に仲介する会社と、売り手と買い手が自分で相手を探すプラットフォームがあります。
料金体系と支援範囲が異なるため、目的に応じて選びます。
主な相談先と特徴
| 相談先 | 特徴 | 向いているケース |
| 民泊M&Aを扱う仲介会社 | 民泊特有の契約や運営事情を踏まえた支援を受けられる場合がある | 初めてM&Aを進める場合や交渉支援が必要な場合 |
| M&Aプラットフォーム | 自分で案件や相手を探し、交渉を進めるサービスが中心 | 自分で資料準備や交渉を進められる場合 |
| 不動産会社・買取会社 | 土地・建物の売却や査定に対応する | 不動産として手放したい場合 |
仲介会社の支援範囲は会社によって異なります。査定、買い手探し、条件交渉、契約手続きの支援など、どこまで対応するかを確認してください。
許認可、税務、法務については、必要に応じて行政書士、税理士、弁護士などの専門家へ確認しましょう。
プラットフォームの料金体系や支援範囲に関しても、サービスによって異なります。
自分で資料の準備や交渉を進める形式もあれば、担当者の支援を受けられる形式もあるため、料金だけでなく対応範囲を比較することがおすすめです。
各サービスの比較は「民泊仲介サイト・業者おすすめ5選!選び方やメリット・デメリットも紹介」で解説しています。
相談先を選ぶときのポイント
相談先を選ぶ際は、次の点を確認してください。
- 民泊案件の取り扱い実績があるか
- 許認可や契約の承継について説明できるか
- 手数料の体系と、発生するタイミングが明示されているか
- どのように買い手を探すのか
- 匿名のまま募集できるか(運営中であることを取引先や近隣に知られたくない場合)
- 契約手続きの支援や専門家の紹介まで対応できるか
特に確認したいのが、許認可への理解です。民泊の売買では、制度ごとの承継の可否を確認し、営業できない期間も想定して進めることが重要です。
不動産売買を中心に扱う相談先を選ぶ場合も、民泊特有の許認可、OTA、既存予約、運営契約について、誰が確認・支援するのかを明確にすることをおすすめします。
民泊M&Aに関するよくある質問
民泊M&Aについて、よく寄せられる質問に回答しました。
赤字の民泊でも売却できますか?
立地や物件の条件によっては、買い手が見つかる場合があります。
ただし価格は下がりやすいため、赤字の原因と改善できる余地を整理したうえで相談することをおすすめします。
設備や許認可が整っていれば、それ自体が評価される場合もあります。
個人が運営している民泊でもM&Aできますか?
個人運営でも、譲渡対象となる家具・設備や、譲渡可能な契約関係などを整理することで、民泊事業を譲渡できる場合があります。
個人事業には譲渡対象となる法人株式がなく、必要な資産や契約を個別に移す必要があるため注意しましょう。
賃貸借契約、許認可、OTAアカウントなどは当然には移らないため、相手方の同意や新たな手続きが必要です。
売却にはどのくらいの期間がかかりますか?
案件や条件によって異なります。
買い手探しに加えて、許認可の手続きに要する期間も見込む必要があります。
売却時期を優先すると、価格や契約条件の選択肢が狭くなる場合があります。許認可や契約の確認期間も見込み、余裕を持って動くことが大切です。
口コミやOTAアカウントは引き継げますか?
各サービスの規約によって扱いが異なります。
新しいアカウントやリスティングが必要になる場合も想定して、集客計画を立てておきましょう。
たとえばAirbnbでは、アカウントの所有権を別のホストへ譲渡できず、アカウント間で情報や予約を移行することもできません。
利用する予約サイトごとに、アカウント、リスティング、口コミ、既存予約の扱いを確認してください。
前のオーナーの運営品質を再現し、早い段階で評価を積み直す準備をしておきましょう。
民泊M&Aにはどのような費用がかかりますか?
必要な税金や費用は、株式譲渡、事業譲渡、不動産売買のどの方法を選ぶか、また売り手・買い手が個人か法人かによって異なります。
不動産を含む場合は、登記費用・登録免許税・不動産取得税などが発生する場合があり、事業譲渡では譲渡する資産の種類によって消費税が発生する場合があります。
個別税務は専門の税理士へ確認しましょう。
民泊M&Aでは、譲渡対象と営業を継続できるかを確認しよう

民泊M&Aとは、株式譲渡や事業譲渡によって、民泊事業の全部または一部を売買する方法です。
土地・建物を含める場合もあれば、家具・設備、運営マニュアル、譲渡可能な契約などに対象を限定する場合もあります。そのため、何を売買するのかだけでなく、買い手が取得後も営業を続けられるかを確認することが重要です。
【民泊M&Aの契約前に確認したいポイント】
| 確認項目 | 内容 |
| 取引方法 | 会社ごと引き継ぐ株式譲渡か、資産や契約を個別に引き継ぐ事業譲渡か |
| 譲渡対象 | 土地・建物、家具・設備、運営マニュアル、契約などのうち何を譲渡するか |
| 許可・契約 | 許可・認定・届出、賃貸借契約、運営代行契約などを継続できるか |
| OTA・既存予約 | 予約サイトのアカウント、口コミ、予約情報をどのように扱うか |
| 営業条件 | 管理規約、用途地域、自治体の条例、消防法令などに問題がないか |
| 価格の根拠 | 利益、稼働率、設備の状態、修繕の必要性、負債などが適切に反映されているか |
事業譲渡では、許可・認定・届出、賃貸借契約、OTAアカウントなどが自動的に引き継がれるとは限りません。株式譲渡でも、変更届や契約上の株主変更条項などを確認する必要があります。
ひとつの方法に縛られず、売却の目的や希望時期に合った方法を選ぶことが大切です。
Stay&では、運営中の民泊を売却したい方、既存の民泊事業を購入したい方向けに、幅広くご相談を受け付けています。
売却価格の目安や引き継ぎの進め方にお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。